【結論|中東情勢による資材不足・価格高騰は工場の修繕工事にも直撃しています。材料が手に入らない・工期が読めない・コストが上がるという3つの影響が同時進行しており、「待てば解決する」という期待は現時点では難しい状況です】
この記事でわかること:
◯ 中東情勢がなぜ工場の修繕工事に影響するのか、そのつながりと背景
◯ 塗装・防水・シーリング工事など工種ごとの具体的な影響
◯ 工場・製造業ならではのリスク(防錆・ライン停止・修繕スケジュール崩壊)
◯ 発注者として知っておくべき施工会社側の実態
◯ 設備担当者が今すぐ取るべき優先順位付きの対応策
この記事が役立つ方:
◯ 工場・倉庫の修繕工事を計画中または検討中の設備・営繕担当者
◯ 資材の値上がりや工期遅延の情報をいち早く把握したい方
◯ 修繕工事を先送りするかどうかの判断に迷っている方
目次
中東情勢が工場の修繕工事に影響している理由
発端はホルムズ海峡封鎖|修繕工事と中東情勢のつながり
2026年2月末、中東で起きた軍事衝突をきっかけに、原油の主要輸送ルートであるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となりました。これが、日本国内の工場修繕工事に直接的な影響を与えることになります。
日本の石油の中東依存度は2025年時点で約94%に達しており、ホルムズ海峡を経由した石油輸入量は全体の約9割を占めています。この輸送ルートが遮断されたことで、石油を原料とする多くの建材・資材の供給が、一気に不安定な状態に陥りました。
「工場の修繕工事と石油は関係ない」と思われるかもしれません。しかし実際には、修繕工事に使う資材の多くは石油由来の化学製品です。この連鎖をひとつずつ見ていきましょう。
修繕工事に使う資材の多くは石油由来
石油を精製すると、ナフサと呼ばれる石油化学製品の原料が取り出されます。このナフサから、シンナー・樹脂・各種溶剤・接着剤・防水材などが生産され、最終的に塗料や建築資材として現場に届けられます。
供給の流れを整理すると、次のようになりました。
①中東の油田から産出した原油がタンカーでホルムズ海峡を通って日本へ輸送される
②日本の製油所で原油を精製し、ナフサを抽出する
③石油化学メーカーがナフサを分解してシンナー・樹脂・各種原料を生産する
④塗料メーカーがシンナー・樹脂・顔料を配合して塗料を製造する
⑤塗料や建材が塗装店・施工会社を通じて修繕現場へ届く
ホルムズ海峡の封鎖はこの流れの最上流を遮断するため、下流にある塗料・防水材・シーリング材など、工場修繕で使うほぼすべての石油由来資材に連鎖的な影響が及んでいます。
工場の修繕工事で起きている3つの影響
材料が手に入らない|工種ごとの出荷制限・停止状況
2026年春以降、主要メーカーから相次いで出荷制限・受注停止の発表が行われています。工場の修繕工事に関連する主な品目ごとの状況は次のとおりです。
| 工種・資材 | 主な出荷状況(2026年春時点) |
|---|---|
| シンナー・溶剤系塗料 | 複数メーカーが出荷制限・一時停止。キシレン・NSソルベントは出荷制限、トップコートシンナーは出荷停止の発表あり |
| 防水材料 | 一部メーカーが防水材料全般の出荷停止を発表 |
| シーリング材 | シーリング材全製品・専用プライマーの受注を一時停止したメーカーあり |
| 錆止め・溶剤下塗り | 受注停止が発表されたメーカーあり |
| ルーフィング(屋根下葺材) | 出荷停止・出荷制限が複数メーカーで発生 |
特に深刻なのは、「値上がりしているが、お金を出せば買える」という状況ではなく、「注文しても出荷できない」という物理的な供給停止が発生している点です。修繕工事は材料が届かない限り着工できないため、工程表が白紙になるケースも出てきています。
コストが上がる|主要資材の値上げ幅と工事費への影響
材料が手に入る場合でも、価格は大幅に上昇しています。2026年春以降に発表された主な値上げ状況は次のとおりです。
| 資材種別 | 値上げ幅(目安) |
|---|---|
| シンナー類 | 最大75%値上げ(日本ペイントが初期段階で発表) |
| シーリング材 | 30%以上値上げ |
| 防水シート・ルーフィング | 40%〜50%値上げ |
| 塗料全般 | 大手メーカー各社が10%〜30%規模の価格改定を実施 |
塗料メーカー各社は、従来は年1回程度だった値上げが複数回・段階的に行われる状態になっています。設備担当者として注意が必要なのは、見積取得後に資材価格がさらに変動するケースが増えている点です。見積の有効期限が従来より短くなっている施工会社も増えてきています。
工期が読めない|供給遅れと長期化リスク
シンナー系塗料では2026年4月初旬時点で1~2か月程度の供給遅れが発生しており、入荷時期未定のケースも発生しています。また、業界レポートによると供給の正常化には最低でも1か月以上を要する見込みで、ホルムズ海峡の情勢次第ではさらに長期化する可能性があります。
注意が必要なのは、情勢が落ち着いた後もすぐに正常化しないという点です。サプライチェーン全体(メーカー・問屋・施工会社)での受発注体制と在庫の再構築に、数か月単位の時間を要すると見られています。「情勢が収まってから動けばいい」という判断は、実態に即していない可能性が高い状況です。
工場・製造業特有のリスク|住宅とは違う深刻さ
修繕の先送りが設備腐食・ライン停止につながる
住宅や一般建築物と工場の大きな違いは、建物の劣化が生産ラインの停止に直結する可能性がある点です。工場では次のような連鎖リスクが発生しやすくなっています。
◯ 屋根や外壁の防錆塗装が劣化したまま放置 → 鉄骨・金属部材の腐食が進行
◯ 腐食が進行した屋根材から雨漏りが発生 → 製造設備・電気設備への浸水被害
◯ 設備が損傷・停止 → 生産ライン停止・出荷遅延
◯ 緊急修繕に切り替わると、通常修繕より大幅にコストが膨らむ
工場の建物は「多くの従業員が働く場所」であり、同時に「製品を生産する設備と同居する場所」です。住宅の修繕を多少先延ばしにしても日常生活に直接的な影響は少ないかもしれませんが、工場では修繕の遅延が事業継続リスクに直結します。
定期修繕・法定点検のスケジュールが崩れるリスク
工場建物の修繕計画は、多くの場合、建物の耐用年数や過去の修繕履歴をもとに数年単位で計画されています。今回の資材不足による工期遅延は、この計画スケジュールを狂わせる可能性があります。
特に注意が必要なケースとして、次の状況が考えられます。
◯ 年度予算を確保していたが、材料調達の遅延で年度内の着工が困難になる
◯ 工事が翌年度にずれ込むことで、次の修繕サイクルとの間隔が詰まりすぎる
◯ 複数の工種を同時に発注する計画だったが、資材確保の問題で分断される
修繕計画が崩れると、「今期修繕できなかった箇所」が翌期以降に積み残しとなり、劣化が進行した状態での施工を余儀なくされるケースもあります。計画の前倒し・優先度の見直しが今まさに必要な局面です。
複数工種が絡む大規模修繕ほど影響が大きい
工場の大規模修繕は、屋根塗装・外壁塗装・防水工事・シーリング工事・床塗装(塗床)などが同時進行することが一般的です。しかし今回の資材不足では、複数の工種にまたがって資材の調達難が発生しているため、工種ごとに着工時期がバラバラになるリスクがあります。
例えば、屋根塗装は塗料を確保できたため着工できたが、防水工事の材料が入らず工程が止まるというケースが実際に発生しています。工程が分断されると、足場の再設置や職人の再手配など追加コストが発生する場合もあります。複数工種をまとめて計画している場合は、工種ごとの資材調達状況を施工会社と早めに確認しておくことが重要です。
施工会社側で起きていること|発注者として知っておくべき実態
資材確保できる業者・できない業者の二極化が進んでいる
今回の資材不足では、施工会社によって資材確保能力に大きな差が出てきています。メーカーとの直接取引実績が豊富な施工会社、仕入れルートを複数持っている施工会社は、優先的に資材を確保しやすい立場にあります。一方で、資材の調達力が弱い施工会社は「手配できない」という状況に直面しています。
発注者である設備担当者の立場からすると、業者選びの基準がこれまで以上に重要になっています。見積金額の安さだけを重視して業者を選ぶと、着工後に「材料が入らないため工事を中断する」という事態になりかねません。
業者の調達力・ネットワーク・メーカーとの関係性も、選定の重要な判断基準となります。
見積金額の有効期限が短くなっている
通常、工事見積の有効期限は30日間〜90日間程度が一般的でした。しかし現在は、資材価格の変動が激しいため、有効期限を従来より大幅に短く設定する施工会社が増えています。また、見積取得時点の資材価格を前提に契約しても、着工までの間に資材価格が変動した場合に追加費用が発生する可能性についても、事前に確認しておく必要があります。
設備担当者として対応するポイントは次のとおりです。
◯ 見積取得後は早期に社内承認・発注の判断を行う
◯ 見積の有効期限と資材価格の変動条件を事前に確認する
◯ 稟議に時間がかかる場合は、見積の有効期間延長が可能か施工会社に相談する
工期遅延ペナルティの取り扱いに注意が必要
資材不足による工期の遅延は、施工会社側の責任によるものではなく、サプライチェーン全体の問題です。国土交通省も、建設業者に対して資材不足を踏まえた適正な工期確保を求める通知を発出しています。
民間工事においても、今回の資材不足を理由とした工期遅延に対してペナルティを適用することは、現状の業界実態に即していない可能性があります。契約締結時には、資材調達の遅延が生じた場合の工期変更・費用負担についての取り決めを明確にしておくことが、後々のトラブルを防ぐことにつながります。
設備担当者が今すぐ取るべき対応策
劣化が進んでいる箇所から優先的に着手する
資材不足の状況下では、すべての修繕工事を同時に進めることが難しくなっています。まずは自社工場の建物状況を確認し、緊急度の高い箇所から優先的に着手する判断が重要です。
緊急度の高い劣化の目安を整理すると、次のようになります。
◯ 雨漏りが発生している、または浸水の可能性がある箇所
◯ 錆の進行が著しく、鉄骨や屋根材の強度に影響が出ている箇所
◯ コンクリートのひび割れが大きく、内部鉄筋の腐食が懸念される箇所
◯ 防水層が劣化し、次の梅雨・台風シーズンまでに補修が必要な箇所
劣化が進んでいる箇所を放置すると、軽微な補修で済んでいたものが大規模改修になり、コストが数倍に膨らむケースがあります。「資材不足だから後回しにする」という判断は、結果的にリスクを高めることになりかねません。
水性塗料など代替材料への切り替えを検討する
現在の資材不足の中心はシンナー(溶剤)の欠品です。裏を返すと、シンナーを必要としない水性塗料は比較的入手しやすい状況にあります。溶剤系塗料から水性塗料への切り替えが、工事の遅延を防ぐための有効な選択肢のひとつとなっています。
ただし、水性塗料への切り替えにはいくつかの前提確認が必要です。
◯ 塗装する部位・素材(鉄骨・コンクリート・金属屋根など)への適合性
◯ 施工時の気温・湿度条件(水性塗料は低温・高湿環境での施工に注意が必要)
◯ 既存塗膜の種類(溶剤系塗料の上に水性塗料を重ねる際の密着性確認)
切り替えの可否や適合する製品については、施工会社や塗料メーカーへの確認が前提となります。代替品の無断混用は施工不良の原因になるため、十分な検討を行った上で判断しましょう。
調達力・提案力のある施工会社を選ぶ
今回の資材不足局面では、施工会社を選ぶ際の判断基準が従来と変わってきています。見積金額だけでなく、次の点も評価基準に加えることをおすすめします。
◯ メーカーとの直接取引・認定施工店としての関係があるか
◯ 資材の現在の調達状況について正直に情報開示してくれるか
◯ 工期遅延が発生した場合の対応方針について明確に説明できるか
◯ 複数工種をまとめて対応でき、工程全体をコーディネートできるか
複数の施工会社から見積を取る際は、資材の確保状況と価格根拠についても比較の対象に含めることで、信頼できる業者を見極めやすくなります。
「待てば解決する」は期待しにくい|今動くべき理由
情勢が落ち着いてもサプライチェーンの正常化には時間がかかる
中東情勢が改善したとしても、サプライチェーンがすぐに元どおりになるわけではありません。各メーカー・流通業者・施工会社の間での受発注体制や価格管理の仕組みが整うまでには、数か月程度の時間が必要と見られています。また、各メーカーは追加の価格改定を示唆しており、原油価格の変動や円安の影響が続く場合はさらに価格が上昇する可能性もあります。
「情勢が落ち着くまで待つ」という判断をした場合、待っている間も建物の劣化は進行し続けます。特に梅雨・台風シーズンは屋根・外壁・防水箇所への負荷が大きいため、修繕が間に合わなかった場合のリスクは季節的に高まります。
先送りよりも早期着手がトータルコストを下げる
修繕工事を先送りにした場合と、今動き出した場合のコスト比較を整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 今動く場合 | 先送りにする場合 |
|---|---|---|
| 資材価格 | 現在の価格水準で着手できる可能性がある | 追加値上げが重なり、さらに高くなるリスク |
| 工期 | 早期に材料を確保することで工期を安定させやすい | 資材調達遅延により工期が大幅にずれるリスク |
| 建物劣化 | 現状の劣化範囲で修繕できる | 劣化が進行し、修繕範囲・工事費が拡大するリスク |
| 緊急対応コスト | 計画的な修繕でコントロール可能 | 雨漏り・腐食が進んだ場合、緊急修繕コストが膨らむ |
工場修繕は「やらなければならない工事」である以上、早く動くほどコストリスクを下げやすい状況です。現在の資材不足・価格高騰の局面では、早期着手の優位性がこれまで以上に高まっています。
まとめ|工場の稼働を守るために今できること
◯ 中東情勢によるホルムズ海峡封鎖の影響で、塗料・防水材・シーリング材などナフサ由来の建材全般に出荷制限・価格高騰が発生している
◯ 工場の修繕工事は「材料が手に入らない」「コストが上がる」「工期が読めない」という3つの影響を同時に受けている
◯ 防錆塗装の遅れが設備腐食・ライン停止につながるなど、製造業特有のリスクがある
◯ 施工会社の調達力に二極化が進んでおり、発注者側の業者選びの目線が今まで以上に重要になっている
◯ 「待てば解決する」という期待は現時点では難しく、早期相談・早期発注が建物と事業を守る最善の手段となっている
工場の修繕工事は、計画・発注・施工と複数のステップが必要です。「そろそろ修繕が必要かもしれない」と感じている設備担当者の方は、まず現状確認のための現地調査から始めることをおすすめします。
株式会社アステックペイントの工場営繕・改修工事サービスでは、全国約3,700社の施工ネットワークの中から、工場・倉庫の改修実績が豊富な認定施工店をご紹介しています。資材の調達状況や水性塗料への切り替え対応など、現在の状況を踏まえた工事プランのご提案も可能です。まずはお気軽にご相談ください。