工場や倉庫の劣化を放置すると、建物としての機能が低下し、生産効率の低下や従業員の皆様の安全に関わる大きなリスクに繋がるおそれがあります。

しかしながら、実際に調べてみると一概に工事といっても「修繕工事」と「改修工事」があり、その違いや最適な工事が何か、どのタイミングで工事を行えばよいかなど、メンテナンス及び工事に関する不明点が多数見つかるケースも少なくないと思います。

そこで本記事では、工場や倉庫における修繕工事に焦点を当て、その定義や重要性、修繕工事のタイミング、実際の工事内容について詳しく解説します。

修繕工事とは?修繕工事と改修工事の違いについて

修繕工事とは

修繕工事とは、老朽化した建物を建築当初の水準まで回復させ、建物の機能や性能を維持することを目的として行う工事です。
工事内容としては雨漏り・ひび割れの補修や、建材の破損・劣化箇所の部材交換、塗装といった、「マイナスをゼロに戻す」イメージの工事を指します。

改修工事とは

改修工事とは、老朽化した建物を原状回復するだけでなく、性能や機能を向上させたり、用途を変更したりして、建物の価値を高めることを目的として行われる工事です。
工事内容としては、屋根・外壁の高機能塗料による塗り替えや部材交換、機能改善や省エネ設備の追加といった、「マイナスもしくはゼロをプラスにする」イメージの工事を指します。

まとめると、修繕工事と改修工事では「工事の目的」と「工事内容」に違いがあります。

修繕工事の重要性

工場や倉庫などにおいては、生産性向上と言うと、新たな設備を導入するといった、他への投資が優先されがちな側面があります。
そのため、建物の軽微な劣化や破損等を見過ごしており、修繕工事を先延ばしにするといったケースが多く見受けられます。

しかし、工場や倉庫の修繕工事を行うことは、安全性の向上や資産価値・企業価値の維持に寄与します。 従業員の皆様の安全確保や資産価値の低下、企業イメージの低下を防ぐために、修繕工事を行うことは重要であるといえます。
それでは、修繕工事を行うべき理由について詳しく解説していきます

安全性の向上

建材の汚染やひび割れ、破損等の劣化症状を放置することは、様々なトラブルの発生に繋がりかねません。

例えば、
・雨漏りにより床が濡れて従業員が転倒する。電子機器がショートし、感電する。
・建材のカビなどを放置したことで、アレルギーや呼吸器系の健康被害を引き起こす。
・地震などの揺れにより、劣化が進んだ建材が落下して、従業員がケガをする。

といった、事故を引き起こす可能性があります。

建物を当初の水準まで回復させることで、このようなリスクを回避することができます。

資産価値の維持

工場や倉庫などの建物は、常に様々な外的要因の影響を受けることで、劣化や損傷が進行していきます。劣化や損傷を放置することで、状態はどんどん悪化していき、やがて機能的な不具合が発生してしまいます。
また、様々な設備が雨漏りや落下物等の外的要因で使用できなくなる、本来の機能を発揮できなくなるといったリスクもあります。
その結果、工場や倉庫が持つ資産としての本来の価値を低下させることに繋がります。
修繕工事を行うことで、建物の劣化や損傷を回復させ、資産価値を本来の水準に維持する事ができます。

企業価値の維持

工場や倉庫の修繕工事は価値の維持にも重要な役割を果たします。
仮に、劣化や損傷を放置したままでは、建物内部の清掃や整理整頓が行き届いていたとしても、外観が著しく低下しているため、取引先や地域住民等の様々な訪問者から悪いイメージを持たれかねません。
「経営状況は大丈夫なのか」「つくられる、保管されている製品の品質は大丈夫なのか」など、ネガティブな印象を与えてしまう可能性があり、口コミの低下や顧客を逃してしまうということにもつながる可能性があります。

修繕工事を適切なタイミングで行えば、このような企業イメージの低下を防ぐだけでなく、従業員のモチベーションアップにもつながり、内側からも外側からも企業価値を維持することが期待できます。

修繕工事のタイミング

修繕工事の重要性については、ご理解いただけたかと思います。では、実際にはどんなタイミングで修繕工事を行うべきなのでしょうか。

結論からお伝えすると、修繕工事は「10~15年の周期」または「劣化症状が確認されたタイミング」で行うことが一般的です。

劣化の進行速度は建物の立地や環境によって大きく異なってきます。特に24時間体制で稼働している工場や倉庫は、高温や湿度変動、油分、振動などの要素が複合的に作用することにより、建材や設備への負荷が高い環境となっているため、一般的な商業施設やオフィスビルよりも早い段階で劣化が進む傾向があります。

同様に修繕工事を行うべき周期、いわゆるメンテナンス周期は、建物を取り巻く様々な要因よって変動します。

ここでは、修繕工事を行うべき劣化症状とメンテナンス周期の「目安」について紹介していきます。

部位別の劣化症状の目安

建材の劣化症状は部位や種類で異なります。ここでは、それぞれの主な劣化症状をご紹介します。
以下の症状が広範囲、もしくは多数見られる場合は、専門家による診断をおすすめします。

●屋根の劣化症状

屋根材の種類劣化症状
波型スレート
(波型スレート)
・苔藻の発生・色褪せ 
・反り・割れ・フックボルトの錆 等
金属折板・色褪せ・チョーキング・塗膜剥離
・錆・孔食・ボルトの錆 等

●外壁の劣化症状

外壁材の種類劣化症状
波型スレート
(波型スレート)
・苔藻の発生・色褪せ
・反り・割れ・フックボルトの錆 等
ALC・色褪せ・チョーキング・塗膜剥離 
・割れ・欠損・凍害・シーリング材のひび割れ 等
金属サイディング・色褪せ・チョーキング・塗膜剥離 
・錆・孔食 等
窯業系サイディング・色褪せ・チョーキング・塗膜剥離 
・反り・割れ・欠損・凍害・シーリング材のひび割れ 等

●内装

内装材の種類劣化症状
天井材(石こうボード等)・汚染・雨染み・割れ・欠損 等
床材(長尺シート等)・汚染・摩耗・めくれ 等

●構造体

構造体の種類劣化症状
鉄骨・汚染・錆・孔食 等
基礎巾木・汚染・ひび割れ・欠損 等

●設備

設備の種類劣化症状
照明・電気設備・汚染・動作不良・故障 等
配管・汚染・錆・孔食・水漏れ・破損 
・汚染・詰まり・チョーキング・変形や破損 等

メンテナンス周期は様々な要因で変動する

一般的にメンテナンス周期の目安としては、屋根・外壁で約10~15年ごとの工事が推奨されています。しかし、これはあくまで目安であり、実際の適切なタイミングは、立地環境や使用状況、建物の構造や使用している建材の種類など、さまざまな要因によって変動します。

適切な時期に修繕工事を行うことで、建物の耐久性を建築当初の水準に維持でき、2章で述べたような「安全性・企業価値・資産価値の維持」につなげることが可能です。そのためには、工場や倉庫に使用されている建材がどの程度劣化しているかを正確に把握し、計画的にメンテナンスを実施することが重要です。

修繕工事の内容

修繕工事は外壁や屋根等の外装部分にとどまらず、構造体や屋外設備等もその対象になります。

修繕項目工事内容
屋根工事・部分補修・屋上防水・屋根塗装・カバー工事・屋根材の葺き替え 等
外壁工事・部分補修・シーリング材の打ち替え・外壁塗装・カバー工事・外壁材の張り替え 等
内装工事・部分補修、内装/床塗装、内装材/床材の張り替え 等
構造補修工事・部分補修・鉄骨防錆処理・基礎巾木の塗装 等
設備工事・配管や樋の交換、電気設備の点検/修理/交換 等

このような修繕工事は、建物のグレードアップを目的とする、お金と時間を大々的にかけた改修工事とは異なり、部位や場所に区分けし、小規模で計画的に行われることが一般的です。倉庫や工場においては生産活動を止めない工事の実施が求められることが多く、「修繕工事」は、このような建物の維持と生産活動の維持を両立させることを前提に行われています

また、これらの工事は建築当初の水準に回復させるという目的から、建築時の状態と同等の機能を発揮する建材や工法を用いて修繕工事が行われることが一般的です。

定期点検の重要性

ここまで、修繕工事を行うタイミングの目安となる劣化症状やメンテナンス周期、その工事内容について解説しましたが、所有されている工場や倉庫の状態を営繕担当者の方のみで確認しても、「これが修繕工事を行うべき状態なのか、そうでないのか」の判断は非常に難しいと思います。
「判断はつかないけど、大丈夫だろう」と、メンテナンスを怠ると、従業員のけがや事故、生産ラインの一時停止といった、様々な運用上のリスクを引き起こす可能性が高くなります。
そのため、気になる症状がある場合や1~3年程度のスパンで、専門業者による点検を行うことが重要になりますこのような定期点検を行うことで、劣化症状の見落としを防ぎ、早期対応によるトラブルを未然に防止することが可能となります

まとめ

今回は、工場や倉庫における修繕工事についてご紹介しました。

修繕工事は適切な時期に行うことで、建物の耐久性を建築当初の水準に維持でき、長期的なコスト削減や安全性の向上につなげることが可能です。そのためには、工場や倉庫に使用されている建材がどの程度劣化しているかを正確に把握することが重要ですが、修繕工事を行うべきかの判断は担当者ひとりでは困難なものとなっております。
普段から定期的なメンテナンスを実施していただくこと、気になる症状があった場合は専門業者に問い合わせていただくことが重要となります

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