工場の床は安全と生産性の「基盤」です。

工場の床面に発生した塗膜の剥がれやコンクリートの粉じん、あるいは長年の使用で不鮮明になった通路ラインを「日常の風景」として見過ごしてはいませんか?

実は、床の劣化は単なる見た目の問題に留まりません。フォークリフト通路の滑りやすさは重大な転倒事故や衝突事故の引き金となり、発生する粉じんは精密機械の故障や製品の品質低下を招きます 。さらに、定期安全監査や顧客による工場見学において、荒れた床面は「安全管理体制の不備」として指摘される対象でもあります。

本記事では、施工管理の視点から、工場・倉庫における床塗装の役割と、現場の環境に合わせた塗料の選び方、そして失敗しない施工業者の見極め方までを詳しく解説します。

床塗装の役割と重要性

床を塗装する作業員

工場や倉庫において、床は最も負荷がかかる部位です。ここを適切にメンテナンスすることは、現場の安全性と作業効率を確保するために非常に重要です。

作業現場の安全性確保

未塗装、あるいは劣化が進んだコンクリート床では、摩耗によって「コンクリート粉(粉じん)」が発生します。

転倒リスクの抑制
粉じんが床に堆積すると、作業靴との摩擦力が低下し、歩行中の転倒事故(ヒヤリハット)のリスクが大きく増します。

視認性の向上
通路や立入禁止区域を明確に色分けすることで、フォークリフトと歩行者の動線を分離し、接触事故を未然に防ぐことができます。

設備と製品の保護

床から舞い上がる粉じんは、製造現場に影響を与える可能性があります。

機械故障の防止
精密機械の内部に粉じんが侵入することで、基板のショートやベアリングの摩耗が早まるなどのリスクが懸念されます。

品質維持
塗装によって床をコーティングすることで、防塵性を高め、製品への異物混入リスクを最小限に抑えることができます。

企業イメージと監査対応

近年、大型顧客や監査機関による工場見学・監査の基準は非常に厳しくなっています。

監査指摘への是正
「床の劣化」や「ラインの不鮮明」は、安全委員会の是正勧告や品質監査でのマイナス評価に直結します。

信頼性の向上
整備された清潔な床は、従業員のモチベーション向上だけでなく、「管理が行き届いた工場」としての対外的な信頼を勝ち取るための武器となります。

床用塗料の種類と特徴|環境に合わせた最適な選定基準

樹脂別の塗料

工場の床塗装を検討する際、まず理解しておくべきことは「床塗装」と「塗床」の違い、そして現場に合わせた樹脂の選定です。単に色を塗るだけでなく、工場の「使われ方」に合わせた仕様を選ばなければ、数ヶ月で剥離や割れが発生し、再投資が必要になるというリスクを抱えています。

「床塗装」と「塗床(ぬりゆか)」の違い

現場では混同されがちですが、施工管理の視点では「膜厚(塗膜の厚み)」による性能の差を明確に区別します。

床塗装とは
厚さ0.1〜0.2mm程度の仕上げ(薄膜仕上げ)を指します。主に防塵(粉じん対策)や軽作業エリアの美観維持を目的とします。コストが安く工期も短いですが、フォークリフトの頻繁な往来や重量物の移動がある場所では、耐衝撃性が不足し剥離しやすくなります。

塗床とは(厚膜仕上げ)
厚さ1mm〜数mm以上の仕上げ(厚膜仕上げ)のものを指します。コンクリートの下地を強力に保護し、フォークリフトの旋回や重量物の衝撃にも耐えうる強靭な床を作ります。「フォークリフト通路の塗膜剥がれ」を解決するには、塗床がおすすめです。

主要な樹脂の特徴と使い分け

工場の床に使用される塗料は、大きく分けて以下の3つの樹脂に分類されます。それぞれの特徴を理解することが、失敗しない選定の第一歩です。

エポキシ樹脂系(高強度・耐薬品性)

工場や倉庫で最も一般的に採用される、信頼性の高い塗料です。
塗膜が非常に硬く、耐摩耗性に優れています。また、耐油性・耐薬品性が高いため、機械工場や化学薬品を扱う現場、食品工場の油汚れにも対応可能です。

フォークリフトが走行する通路や、パレットの引きずりが発生するエリアには、このエポキシ樹脂系の厚膜仕様が第一候補となります。

ウレタン樹脂系(柔軟性・耐衝撃性)

エポキシ系樹脂に比べて「しなやかさ」を持っているのが特徴です。
柔軟性があるため、下地のコンクリートに微細な挙動(振動)がある場合でも追従し、割れにくい性質があります。また、歩行感も良く、台車などの走行音を軽減する効果も期待できます。

冷蔵・冷凍庫のような温度変化の激しい場所や、人の往来がメインのピッキングエリア、あるいは屋外に面した半屋外のプラットホームなどに適しています。

アクリル樹脂系(速乾性・低コスト)

初期投資を抑え、スピードを重視する場合に選ばれます。
乾燥が極めて速く、施工当日の開放が可能なケースもあります。ただし、エポキシ系樹脂やウレタン系樹脂に比べると耐久性や耐溶剤性は劣ります。

稼働を止める時間が極端に短い通路のライン引きや、軽作業のみを行う小規模な倉庫、定期的な塗り替えを前提としたエリアに向いています。

自社環境に合わせた「工法」の選定基準

塗料を選定する際は、以下の「4つの負荷」を基準に、専門家と相談しながら仕様を絞り込みます。

  1. 物理的負荷: フォークリフトの重量や旋回頻度。
  2. 化学的負荷: 油、水、洗浄剤、化学薬品の付着。
  3. 熱的負荷: 高温の排水や、冷凍庫のような極低温環境。
  4. 時間的負荷: 工事に割ける時間(夜間・連休内での完了)。

安全委員会からの指摘や是正期限がある場合、つい「すぐに終わる工法」を選びがちです。しかし、フォークリフトが激しく走行するエリアに安易な薄膜塗装を施すと、半年も経たずに元の「剥がれ・粉じん」の状態に戻ってしまいます。

長期的なコスト(LCC)を最適化するには、今の床にかかっている負荷を正しく診断し、それに見合った仕様を選択することが、結果として最も安く済む解決策となります。

【関連リンク】

塗床工事 | 工事メニュー | アステックペイント 

床塗装の工程

下地処理

床塗装において、最も目につきやすいのは見た目に関わる「上塗り」の工程ですが、実は塗装の成否、つまり「数年後に剥離するかどうか」の多くは、目に見えづらい「下地処理」で決まります。

ここでは、床塗装の標準的な工程を解説します。

下地処理(素地調整):密着のための「土台作り」

コンクリートの表面は、一見平滑に見えても、実は「レイタンス」と呼ばれる脆弱な層や、長年染み込んだ油分、微細な粉じんに覆われています。これらを除去せずに塗装するのは、砂の上に家を建てるようなものです。

研磨(サンダー掛け・ショットブラスト)
専用の機械を用いてコンクリートの表面を薄く削り取ります。これにより、脆弱な層を除去すると同時に、表面に微細な凹凸を作り、塗料の密着性を向上させます。

油分・汚れの除去
フォークリフトから漏れた油や、加工工程で飛散した油脂が残っていると、塗料は密着しづらくなります。専用の洗浄剤や溶剤を用いて、深部まで脱脂を行います。

欠損・クラック(ひび割れ)の補修
段差やひび割れは、専用のエポキシパテなどで平滑に埋めます。この「不陸調整(ふりくちょうせい)」を丁寧に行うことで、フォークリフト走行時の衝撃による塗膜の割れを未然に防ぎます。

下塗り(プライマー):接着剤の役割

下地が整ったら、最初に塗るのが「プライマー」です。
下地のコンクリートに深く浸透し、後に塗る主剤(エポキシ等)とコンクリートを強固に結びつける役割を果たします。コンクリート内部の空気を封じ込め、上塗り後の「膨れ」を防止する効果もあります。

中塗り:機能と厚みの確保

主剤となる樹脂(エポキシやウレタン)を塗布する工程です。
膜厚(塗膜の厚み)を確保し、耐衝撃性や耐荷重性を高めます。

「防滑(滑り止め)」を付与する場合、この段階でケイ砂などの骨材を散布したり、塗料に混ぜ込んだりすることで、表面に意図的なザラつきを作ります。これにより、水や油で濡れた状態でもフォークリフトのタイヤが空回りせず、作業者の転倒を防ぐ安全な床が形成されます。

上塗り:最終仕上げと保護

最後の仕上げとして、耐候性や耐摩耗性を高めるトップコートを施工します。
下層の塗膜を保護し、長期間の美観を維持します。また、清掃性を高めるための平滑仕上げや、通路ラインの明瞭化もこの工程で行います。

特に、夜間や連休の限られた工期の中で施工する場合は、各工程の「乾燥時間」を厳守することが重要です。乾燥が不十分なまま次の塗料を塗ると、内部で硬化不良を起こし、早期での劣化や不具合の原因となります。

信頼できる床塗装業者の選び方

見積書

床塗装は、一度施工すると数年はやり直しがききません。特に「監査対応」や「安全対策」が急務の場合、単に「綺麗に塗る」だけでなく、工場の稼働状況を理解し、技術的根拠に基づいた提案ができる業者を選ぶ必要があります。

失敗しない業者選びのために、プロがチェックする3つの重要ポイントを整理します。

現場調査の「質」で見極める

良い業者は、いきなり見積もりを出しません。まず徹底的な現場調査を行います。

床の「真の状態」を診断しているか
表面の剥がれだけでなく、コンクリート内部への油の浸透具合、水分量、クラックの深さなどまでチェックしているかが重要です。水分量が多い床にそのまま塗装を施すと、後に「膨れ」などの不具合が発生します。

操業環境へのヒアリング
「フォークリフトの重量は何トンか」「旋回が激しい場所はどこか」「薬品や洗浄剤の使用頻度は」など、床にかかる負荷を細かく聞き取る業者は、それだけ最適な仕様を提案しようとしている証拠です。

見積書に「下地処理」の詳細が書かれているか

先の章で述べた通り、床塗装は下地処理が命です。見積書に「下地処理一式」と一行で書かれている場合は注意が必要です。

「ライナックス(床研磨機)による目荒らし」「クラックのエポキシ樹脂注入」「既存塗膜の完全剥離」など、具体的にどのような作業で密着性を高めるのかが明記されているかを確認してください。ここが曖昧な業者は、施工後のトラブルが発生するリスクが高いと言えます。

工場の「制約」に対する提案力

「工期」や「臭気」に対し、どれだけ柔軟な提案ができるかも重要な判断基準です。

稼働停止を最小限にする段取り
「夜間施工の体制」「連休内の完全硬化スケジュール」「エリアを分けたローリング施工」など、生産ラインを止めないための具体的な工程提案があるかなど、稼働への影響を最小限にする段取りが組まれていることも業者を選ぶ基準となります。

環境・品質への配慮
食品工場や精密機械工場の場合、塗料の臭気(VOC)が製品に影響を与えることがあります。低臭気タイプの塗料の提案や、排気・養生の計画を事前に提示できる業者は、工場の特性を熟知していると言えます。

監査・安全委員会向けの「エビデンス」

信頼できる業者は、施工後に「報告書」を提出します。
下地処理前後の写真、塗膜の厚み、防滑性の確認データなど、安全委員会や監査でそのままエビデンスとして使える資料を整えてくれる業者は、ビジネスパートナーとして非常に心強い存在になります。

工場床のDIY塗装|「自分たちで塗る」前に知っておくべきリスク

DIY イメージ

「少しでもコストを抑えたい」「部分的な補修だから自分たちでできるはず」と考え、ホームセンターなどで購入した塗料を使ってDIYで床塗装に挑戦するケースは少なくありません。しかし、工場や倉庫においては、DIY塗装が思わぬ落とし穴になることがあります。

施工管理技士の視点から、DIYを検討する際に必ず考慮すべき技術的・実務的リスクを解説します。

下地処理の限界が「短命な床」を作る

これまでに何度も強調してきた通り、床塗装の命は下地処理(研磨や脱脂)にあります。

機材の壁
プロが使用する専用の床研磨機やショットブラスト機は、コンクリート表面をミリ単位で均一に削り、塗料が強く密着するための「理想的な下地」を作ります。

DIY用のサンダーや手作業では、レイタンス(脆弱層)を完全に取り除くことは難しいため、塗った直後は綺麗でも数カ月で剥がれてしまうなどといったトラブルが生じることがあります。

脱脂の不備
長年染み込んだ油分は、表面を拭くだけでは落ちません。プロは専用の溶剤やバーナー、薬品を駆使して油を除去しますが、これが不十分だと塗料が十分な性能を発揮できず、早期での不具合や劣化のリスクに繋がります。

「失敗した時のリカバリー」は数倍のコストがかかる

DIYで最も恐ろしいのは、一度塗って失敗した(剥がれた)後の補修です。

剥離費用の増大
剥がれかけた中途半端な塗膜が残っていると、その上からプロが塗り直すことはできません。まず「失敗した塗膜をすべて削り取る(剥離工事)」という工程が追加で発生します。

二重のコストと工期
DIYの材料費と人件費、さらに失敗した塗膜の剥離費用、そしてプロへの再依頼。最初からプロに任せていれば発生しなかった「余計な支出」と「二重の稼働停止期間」が発生し、結果として予算を大幅にオーバーすることになります。

「安全」と「責任」の所在

安全委員会や監査の指摘がきっかけである場合、DIYには特有のリスクが伴います。

防滑性能の担保
DIYでの「滑り止め」はムラになりやすく、場所によって滑る・滑らないの差が出てしまうことがあります。万が一、DIY施工した場所で転倒事故が起きた際、その施工責任を誰が取るのかという社内コンプライアンス上の問題が生じます。

保証の欠如
専門業者の施工であれば、万が一の剥離に対しても保証(アフターフォロー)がありますが、DIYには一切の保証がありません。

それでもDIYで行う場合の「限定的な条件」

もし、どうしてもDIYで行うのであれば、以下の条件に限定することを強く推奨します。

  • フォークリフトが入らない、歩行のみのエリア。
  • 重い什器や棚を置かない、一時的な仮置き場。
  • 仕上がりの美観や数年後の剥離を許容できる場所。

それ以外の「フォークリフト通路」や「製造ライン」など、工場のメインとなる動線については、プロによる確実な施工を選択することが、結果として工場の資産価値を守る最短ルートとなります。

 まとめ

工場の床塗装は、単なる「色の塗り替え」ではなく、現場の安全と生産性を支える「インフラ整備」です。

  • 現状の劣化を正しく診断すること。
  • 現場の負荷(リフト、油、熱)に最適な樹脂を選ぶこと。
  • 目に見えない「下地処理」に一切の妥協をしないこと。

これらを満たすことで初めて、安全監査をパスし、従業員が安心して働ける「強い床」が完成します。是正期限への対応や、工期のご相談、最適な仕様の選定でお悩みの方は、ぜひアステックペイントまでご相談ください。貴社の現場に最適な解決策を共に考えます。

「まだ予算をかけるほどではない」と感じる今のタイミングこそが、実は最も修繕コストを抑え、大切な設備と従業員の安全を確実に守れる唯一のチャンスです。

アステックペイントでは、全国のネットワークを通じて、工場の課題に深く寄り添う加盟店が、現場調査から最適な工法の提案、施工後のアフターフォローまでを一貫してサポートしています。床の状態に少しでも不安を感じたら、まずはプロによる「床診断」をご検討ください。

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