工場の折板屋根は、風雨や紫外線、温度変化にさらされることで、表面のメッキや塗装が徐々に劣化し、サビの進行や雨漏りといった深刻なトラブルに繋がります。
しかし、メンテナンスに際し「どのように補修すればよいのか」「本当に必要な工事は何か」が分からないまま施工業者の見積りに従ってしまうと、思わぬ過剰請求や再施工のリスクも生じます。
そこで本記事では、折板屋根の改修工事の検討を始める方に向けて
・折板屋根の種類(メッキ処理やコーティングによる分類)
・代表的な劣化症状
・改修工事の主な種類とそのメリット・デメリット
について解説いたします。
また、折板屋根の施工面積の求め方やおすすめの塗装プランもご紹介します。ぜひご一読ください。
目次
折板屋根とは?

折板屋根とは、鋼板(鋼鉄の板)を波型に折り曲げて成型した屋根材を葺いた屋根を指します。
面積の大きな建物に対しての施工性に優れ、工事費用を抑えられる上に耐久性も高いため、工場や倉庫といった大規模な建物に採用されることが多いです。
折板屋根のメリット
・低コストで施工できる
・軽量である
・不燃性である
・金属製のため水はけが良い
・ガルバリウム鋼板などのサビが出にくい素材では、耐久性が比較的高い
・建物の形状や大きさに合わせた施工ができる(施工の自由度が高い)
折板屋根のデメリット
・雨水や塩害によって表面にサビが発生する
・雨音が響きやすい
・夏場、温度が上昇しやすく、断熱材を施工しない場合、屋内の温度上昇につながる
折板屋根の種類
一概に折板屋根といっても様々な種類があります。
ここでは、折板屋根の素材となる「鋼板」に施されている表面加工(メッキ処理とコーティング)による分類をご紹介します。

メッキ処理による鋼板(折板屋根)の分類

メッキ処理とは、金属や非金属などの表面に薄い金属を成膜させる技術の総称です。
折板屋根では、サビを防ぐことを主目的として、錆びにくい金属でメッキ処理を行います。
①亜鉛メッキ鋼板(トタン)
亜鉛でメッキ処理した鋼板で、トタンの名称の方が馴染みがあるかもしれません。
特徴は以下のとおりです。
・材料費、施工費が安い
・折板屋根の中では比較的錆びやすく耐久性もやや低い
・居住建築物では使用されることが少なく、主に工場・倉庫などで使用されることが多い
亜鉛メッキには、一般的に「電気亜鉛メッキ」と「溶融亜鉛メッキ」の2種類があり、メッキ処理の方法が異なります。
電気亜鉛メッキ
電気分解を用いて薄い亜鉛皮膜を施す処理方法です。
工場・倉庫の屋根材や外壁材に用いられるのは、主にこちらの電気亜鉛メッキ鋼板です。
溶融亜鉛メッキ
高温で溶かした亜鉛に鋼板を浸してメッキ処理を行います。
工場・倉庫においては、外階段や電灯の支柱などに使われます。
②ガルバリウム鋼板(GL鋼板)
金属表面にアルミニウム、亜鉛、シリコンの合金メッキの被膜を施した鋼板で、一般的に55%アルミ・亜鉛合金メッキ処理が施された鋼板のことを「ガルバリウム鋼板」や「GL鋼板」と呼びます。
アルミニウム特有の錆びにくい特徴も兼ね備えており、亜鉛メッキ鋼板より腐食しにくい鋼板として近年主流となっています。
判断が難しい場合は、基材不明を前提とした工法選定を行う
施工されている折板屋根材が亜鉛メッキ鋼板か、ガルバリウム鋼板か目視で見分けるのは難しく、特に表面に塗装が施されている場合には判断が困難となります。
基本的には図面や過去の工事書類での確認を行うことが確実です。
塗装改修工事等に際して種類を判別できない場合は、基材不明を前提として下塗りを選定できる仕様(密着性・防錆性・汎用される複数種類の金属基材に対応したもの)を選定します。
コーティング(表面塗装)による分類

亜鉛メッキ鋼板やガルバリウム鋼板は、デザイン性や様々な機能を付与させる目的で、製造工程でコーティングを行う場合があります。
使用するコーティング材(樹脂)やコーティング方法によって鋼板の名称が異なります。
●カラー鋼板
亜鉛メッキ鋼板やガルバリウム鋼板の表面に、ポリエステル樹脂塗料を施した鋼板のことを「カラー鋼板」と言います。
ポリエステル樹脂は、強靭性・耐水性・耐食性・防食性に優れた樹脂です。
鋼板のコーティングでは最も頻繁に使用されています。
●フッ素鋼板
亜鉛メッキ鋼板やガルバリウム鋼板の表面に、フッ素樹脂塗料を焼付けた鋼板のことを「フッ素鋼板」と言います。
炭素とフッ素の結合が非常に強固であるため紫外線・熱・酸やアルカリなどにきわめて安定な性質を持ち、「高耐候性」、「耐薬品性」などに優れています。
カラー鋼板と比べて、サビや、変退色が発生しやすい点でも優れています。
一方で、フッ素樹脂コーティングは、撥水・撥油性が高いため塗料が付着しにくい性質があり「難付着」と呼ばれます。
そのため、塗装による改修工事を行う際には密着力に優れた専用のプライマー(下塗材)を使った工法仕様を選択する必要があります。
●塩ビ鋼板
亜鉛メッキ鋼板やガルバリウム鋼板の表面に、塩ビ樹脂フィルムを張り付けたものを「塩ビ鋼板」といい、塩ビ樹脂塗料をコーティングしたものを「塩ビゾル鋼板」といいます。
ポリ塩化ビニル樹脂(塩ビ樹脂)は、塩化ビニルを繰り返し結合させた高分子化合物で、多くの部材で使用されており、「耐薬品性」「耐酸性・耐アルカリ性」「耐水性」が高く、安価という長所があります。
ポリ塩化ビニル樹脂は、塩ビ鋼板のコーティング材として使用されているだけでなく、樹脂サイディングのコーティング材、雨樋、床材、防水材などに広く使用されています。
コーティングを目視で見分けることは困難
鋼板のコーティングを断定するのは難しく、特に経年により塗膜が劣化している場合、プロでも外観だけでの判別は迷うことがあります。
メッキの判別と同様に、図面や型番、過去の工事での書類確認が最も確実です。
書類が無い場合には、専門業者による現場調査時に確認を行ってもらうのが良いでしょう。
■関連ダウンロード資料

折板屋根の劣化症状・改修方法
工場や倉庫などの屋根は、長年にわたる太陽光や風雨の影響で劣化が進行すると、雨漏りにつながる恐れがあります。
以下の劣化症状が見られる場合や、新築時、または前回の改修から約10年経過している場合には、専門業者による定期点検及び早めのメンテナンス計画の立案をおすすめします。
建材の劣化症状
■剥がれ・ズレ

■孔あき(孔食)

■赤サビ

■ボルトのサビ

■白サビ

このような折板屋根の劣化症状を放置すると、劣化箇所から雨水が染み込み、雨漏りに繋がる可能性があります。
仕上材の劣化症状(中期劣化)
■塗膜の剥離

■塗膜のチョーキング

■汚染(工場内の有機物)

■汚染(工場内の鉄粉)

折板屋根表面の塗膜が剥離している場合、折板屋根の素地が外気や雨水に晒されサビの発生に繋がります。
また、塗膜の色あせやチョーキングが確認できる場合も劣化が始まっているサインとなります。メンテナンスを怠ると、同じくサビの発生に繋がります。
折板屋根の改修工法
折板屋根の改修工事をご検討中の方に向けて、代表的な改修工法と選定目安をご紹介します。
塗装工事
改修工事において最も選ばれやすい工法です。
塗装工事には以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | ・コストパフォーマンスに優れる。 ・材料のグレード、機能、色の選択肢が多い。 ・遮熱性を持った塗料を選ぶことで、暑さ対策・節電効果が期待できる。 |
デメリット | ・既存の屋根材の上に塗装するため、大幅なデザイン変更は難しい。 ・建物の劣化が著しい場合は、洗浄作業やケレン作業などの工数が多くなり、割高になる場合や、そもそも塗り替えができない場合もある。 |
カバー工事(二重折板・重ね張り)
既存の建材の上に新しい建材を重ね張りする改修方法であり、建材の耐久性を向上させることができます。
葺き替えと比べると、メンテナンス費用を抑えることができます。
カバー工法には以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | ・耐久性が向上する。 ・全面張り替えと比べ費用と工期が少なく済む 。 ・既存の屋根に新しい建材を重ねることで断熱性と遮音性が向上する。 |
デメリット | ・下地の補修が困難なため、建材の傷みが著しい場合は不向きである。 ・建材を重ねることで重くなるため、耐震性が低下する可能性がある。 ・ 建材同士の間に隙間が生じるため、雨漏りが発生した場合は特定が困難になる。 |
葺き替え工事
葺き替え工事は、既存の屋根材を完全に取り除き、新しい屋根材に交換する方法です。
外観の大幅なデザイン変更や耐久性の向上を目的として行われることが一般的です。
葺き替え工法には以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | ・デザインの自由度が高く、建物の印象を一新させることができる 。 ・耐用年数を延長させ、メンテナンス頻度を下げることで、トータルのメンテナンスコストを抑えられる可能性がある。 |
デメリット | ・コストが高い。 ・施工期間が長い。 ・施工中は屋根がなくなるので、工場ラインの停止が必要となる。 |
改修工事別の耐候年数と価格の目安
工法 | 耐候年数 | 価格 |
---|---|---|
塗装工事(シリコン塗料) | 10~15年程度 | 約1,500~3,500円/㎡ |
塗装工事(フッ素塗料) | 15~20年程度 | 約1,500~3,500円/㎡ |
カバー工法 | 20年程度 | 約5,500~12,000円/㎡ |
葺き替え工法 | 30年程度 | 約7,000~16,000円/㎡ |
費用面を見ると、塗装工事が一番抑えられます。
ただし、劣化した下地や既存塗膜の上から塗装を行うため、補修作業が不十分な場合は塗装後の不具合が再発する可能性があります。
塗装できないほど下地が劣化している場合や塗装後の不具合の発生が懸念される場合は、カバー工事や葺き替え工事がおすすめです。
折板屋根の施工面積の求め方
改修工事にあたっては、施工業者様が現場調査を実施したうえで見積りをもらうことになります。
ただ、中には概算ですぐにでも費用感を知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、簡易的ではありますが、折板屋根の施工面積の求め方をご紹介します。
算出された数値から、各施工業者様が提示されている、㎡当たりの価格に当てはめることで、おおよその費用感を算出することができます。
≪求め方≫
折板屋根は山谷があるため、単純な縦×横の長さでは、施工面積を求めることができません。
山谷形状の分を考慮して横方向の長さに係数を掛ける必要があります。
また、折板屋根の山谷にもサイズがあり、88mmタイプ、150mmタイプがあります。
図面等を用いて、折板屋根の長さを確認いただき、算出ください。
88mmタイプの場合


屋根の表面積=軒の長さ×斜面の長さ×1.4
150mmタイプの場合


屋根の表面積=軒の長さ×斜面の長さ×1.7
おすすめ塗装プランの紹介
アステックペイントがおすすめする塗料プランをご紹介します。
※塗装以外にも、カバー工法や部分葺き替え等もご対応可能です。

※表の超低汚染リファインシリーズは水性タイプです。寒冷地・冬場の施工に適した弱溶剤タイプもございます。
■超低汚染リファイン500シリーズ
・無機フッ素塗料とシリコン塗料の2種類があります。
・製品名の通り低汚染性に優れ、遮熱性(暑さ対策効果)を兼ね備えた塗料です。
一般的な屋根用遮熱塗料では、経年とともに塗膜が汚れることで、遮熱性能が低下していきます。しかし、超低汚染リファイン500シリーズは、低汚染性に優れているため、遮熱機能が長持ちする「遮熱保持性」も兼ね備えています。
また、超低汚染リファイン500シリーズのうち、弱溶剤タイプは寒冷地でも安心してご使用いただけるよう、低温タイプのご準備もあります。
■EC-1000PCM
・水性形のピュアアクリル塗料です。
・防水性に優れた塗装仕様で、折板屋根の重なり部やボルトの隙間から入り込む雨水を抑制できます。
・遮熱性があり、暑さ対策・節電効果も期待できます。
■シャネツトップワンSi-JY
・弱溶剤型のシリコン塗料です。
・軽微な劣化の折板屋根に対してシーラーレス(下塗材不要)で塗装できます。
・一般的な塗装工程から、1工程減ることにより、施工面積が広いほど塗装費用を抑えることができます。
・遮熱性があり、暑さ対策・節電効果も期待できます。
まとめ
今回は、折板屋根の種類や特徴、メンテナンス方法をご紹介しました。
工場や倉庫の改修工事には費用と日数がかかります。
そのため、改修工事に対して正しい知識を身につけ適切な改修工法を選ぶことが重要になります。
ぜひ、工法選定に本記事をお役立てください。
最後に
アステックペイントでは、工場・倉庫のスレート屋根改修工事を承っております。
全国の工場・倉庫改修工事を得意とする有料認定施工店とのネットワークを活かして、安全対策に十分に配慮した高品質な塗装工事をご提供可能です。
まずは小さな工事やご相談からでも、お気軽にお問い合わせくださいませ。
関連のお役立ち資料はこちら
