工場・倉庫を管理する営繕担当者や経営者の方から日々寄せられるお悩みとして、
「スレート屋根の所々で雨漏りしている」
「改修工事をしたいけど、屋根にアスベストが含まれているか分からない」
といったお声をいただくことがあります。
スレート屋根は劣化状態によって最適な改修工法が変わるだけでなく、アスベストの有無で法的手続きや費用も大きく異なるため、初めての改修では判断に迷いがちです。
そこで、本記事では、
• スレート屋根の基礎知識
• アスベスト含有の見極め方と注意点
• 劣化状態別の改修工法と費用感
• アスベスト調査を含む改修工事までの流れ
について詳しく解説していきます。スレート屋根の改修工事をご検討中の方はぜひご一読ください。
目次
スレート屋根とは
スレート屋根(波形スレート屋根/波型スレート屋根)とは

スレート屋根とは、セメントに繊維素材を混ぜて圧縮成形した厚さ5~6mm程度の板を波型に加工した「波形スレート」を使用した屋根のことを指します。屋根材単体では軽量、さらに波型形状により高い強度を持ち、工場や倉庫などの屋根材として採用されることが多いです。
スレート屋根のメリット・デメリット
広く普及しているスレート屋根ですが、様々なメリット・デメリットがあります。
<メリット>
・軽量であるため、建物自体の負荷が少なく、施工性が高い。
・セメント基材のため耐火性や耐熱性が高い。
・耐久性は一般的に30~40年と高く、トータルで見た際のコストパフォーマンスが良い。
<デメリット>
・経年劣化によって、セメント成分により吸水性が高くなり、苔藻・ひび割れ・反りが発生しやすくなる。
・経年劣化により非常に脆くなったスレート屋根の改修工事は、踏み抜きによる転落事故などのリスクが高い。
・2006年9月以前に施工されたスレート屋根については、アスベストが含まれている可能性がある。
スレート屋根に含まれるアスベストについて
スレート屋根のデメリットとして、「アスベスト」を含有している可能性がある点が挙げられます。本章ではアスベストがどのようなものなのか、アスベストの有無の判断方法について解説します。
アスベスト(石綿)とは

アスベスト(石綿)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物です。耐熱性、耐火性、絶縁性、耐薬品性に非常に優れているため、かつては「奇跡の鉱物」と呼ばれ、建築材料として広く使用されていました。特に1950年代から1980年代にかけては、スレート屋根を含む多くの建材に補強材として採用されてきました。
しかし、アスベストには重大な健康リスクが存在します。極めて細い繊維(髪の毛の5,000分の1程度の太さ)が空気中に飛散し、それを吸い込むことで、肺がんや中皮腫(胸膜や腹膜にできる悪性腫瘍)、石綿肺など深刻な疾患を引き起こす可能性があります。
このような健康被害のリスクから、日本では2004年に原則使用禁止、2006年には全面使用禁止となりました。しかし、それ以前に建設された多くの工場や倉庫の屋根には、現在もアスベストを含む波型スレートが使用されている可能性があります。改修工事を行う際はアスベストの飛散を防ぐために、アスベストの含有有無を判別するもしくは、含まれているとみなして飛散防止対策をする場合があります。
アスベストが含まれているかどうかの判断方法
アスベストの有無を目視のみで判断することは不可能です。
しかし、建物の築年数からの推測、製品情報からの特定、分析機関を通しての特定といった方法で、適切な改修工法を選定することができます。
①建物の築年数から推測する。
建物の築年数や製品の製造時期から、ある程度の推測は可能です。
製造年代によるアスベスト含有の可能性:
• 1950年代〜2004年9月: アスベスト含有の可能性が高い
• 2004年10月〜2006年8月: 一部の製品にアスベストが含まれている可能性あり
• 2006年9月以降: アスベスト含有製品の製造・使用は全面禁止
②製品情報(製品名や型番、製造時のメーカー、製造期間)から特定する。
建設時の図面や明細などから製品情報(製品名や型番、製造時のメーカー、製造期間)が分かれば、以下の「石綿(アスベスト)含有建材データベース」を使用して、アスベスト含有建材に該当するか否かを特定することができます。
③専門機関で分析を行い特定する。
築年数はあくまで推測であり、「石綿(アスベスト)含有建材データベース」で情報が得られない場合は特定の手段がありません。
そこで、専門機関で分析を行うという方法があります。費用や時間はかかりますが、確実にアスベストの有無を特定できるというメリットがあります。
以下では、アスベスト調査を含む改修工事までの流れを紹介しておりますので、こちらもぜひご一読ください。
アステックペイント施工業者向けサイト「APONLINE」内
アスベストの飛散防止対策とは?対策が必要な工事現場を詳しく解説
スレート屋根の劣化状況別 改修方法の種類と費用目安

スレート屋根の改修を検討する際は、劣化状況に応じた適切な工法選択が重要です。
スレート屋根の改修工法早見表
以下の表は一般的に用いられるスレート屋根の改修工法をまとめた早見表です。
それぞれの改修工法について、具体的な劣化症状例を交えて紹介します。
あくまで目安値にはなりますが、改修工事の計画を立てる際の参考にしていただければと思います。
| 改修工法 | 劣化状況 | 耐用年数 | コスト(1㎡あたり) |
|---|---|---|---|
| 塗り替え | 軽度 (汚染・苔藻 等) | 10~15年 | 約1,500~3,500円 |
| カバー | 中度~重度 (ひび割れ・欠損 等) | 15~25年 | 約5,500~12,000円 |
| 葺き替え | 中度~重度 (ひび割れ・欠損 等) | 25~40年 | 約7,000~16,000円 |
塗装工事(塗替え工事)
【劣化状況】軽度~中度
経過年数が短く、光沢低下・苔藻・汚染が確認できるが、スレート屋根のひび割れはわずかもしくは発生していない。
このような状況であれば、「塗装工事(塗替え工事)」がおすすめです。
スレート屋根自体の物理的強度は保たれており、塗装により建材を保護することで劣化の進行を抑制できます。工事にかかるコストが比較的安く、また使用する塗料の種類によって、遮熱性や低汚染性などの効果を付与できます。
ただし、劣化の著しいスレート屋根では、塗装による改修ができない場合もありますので、専門業者にご相談ください。
また、アスベスト含有建材の場合は、別途アスベスト飛散対策が必要となります。
カバー工事・葺き替え工事
【劣化状況】中度~重度の場合
30年程度経過しており、光沢低下・苔藻・汚染だけでなく、
スレート屋根のひび割れや欠損が多数確認できる。
劣化が進行している波形スレートは非常に脆いため、塗り替え工事だけでは強度の回復は見込めません。
そのため、屋根の不具合を根本的に解消できる「葺き替え工事」または、アスベスト含有建材でも改修可能な「カバー工事」を推奨します。
カバー工事とは、既存の波型スレート屋根の上に、新しい屋根材を重ねて葺く方法です。
近年はガルバリウム鋼板のカバー屋根材が使用されることが多く、耐用年数はおおよそ20~30年ほどです。
次の葺き替え工事と比較して廃材が少ないといったメリットがあります。
また屋根が二重となるために、断熱性や防音性が向上する効果もあります。
ただし、カバー工事は屋根の重みが増すため、耐震性が低下する恐れがあり、建物の耐荷重によってはカバー工事ができない場合があります。
葺き替え工事とは、既存の波型スレート屋根を撤去し、新しい屋根材に交換する方法です。
耐用年数は屋根材そのものの年数となり、新たに波型スレートで葺き替える場合は、30~40年となります。
屋根材を一新するため防水性能を取り戻すことができますが、既存屋根を撤去する分、コストは上がり、工期は長くなります。さらに、工場の稼働を停止する必要があるため、部分的な葺き替え工事を除き、採用されることは少ない傾向にあります。
カバー工事や葺き替え工事は、劣化が進行していても施工可能である反面、コストが高くなる傾向にあります。実際にどの工法がご自身の工場や倉庫の改修工法として有効なのかは、専門業者による調査結果を参考に決めていくことが重要です。
スレート屋根の改修工事までの流れ(アスベスト調査含む)
様々な工法や注意点のあるスレート屋根の改修工事ですが、最適な改修工法を選定するために着工までの流れを把握しておくことも重要なポイントとしてあげられます。
本章では、調査依頼から改修工法までの流れをご紹介します。
調査依頼
改修工事の第一歩は、「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持つ専門家への調査依頼です。2023年10月からは全ての解体・改修工事において、この有資格者によるアスベスト調査が法的に義務付けられています。
■調査依頼時に準備しておくと良い情報
• 建物の竣工年と改修履歴
• 建築図面や過去の工事記録(あれば)
• 屋根材の種類・メーカー情報
• 現在発生している不具合(雨漏り箇所など)
現場調査
実際に工事物件に施工業者が訪れ、建材にアスベストが含まれているかを調査します。書面で確認できなかった箇所を細かく調査するほか、書面調査の内容に間違いがないかを確認します。
また、現場調査にてアスベスト有無の判断ができない場合は、建材を採取して分析し、アスベストの有無と種類を特定します。
調査機関での分析
現場調査にて採取したサンプルは専門の分析機関にてアスベストの有無と種類を特定します。
分析結果は、分析を行う機関やタイミングにもよりますが1週間程度でわかります。
なお、施工業者によっては、アスベスト分析調査を省略する代わりに「みなし工事」を行う方法を採用している場合あります。
「みなし工事」とは、すべての建材がアスベストを含んでいるとみなして飛散防止措置をとりながら工事を進める方法です。「みなし工事」により分析調査を省略することはできますが、書面調査・目視調査・調査報告書の提出は省略できませんので注意してください。
見積確認
調査結果を踏まえ、施工業者から適切な工法と費用の見積りが提示されます。
• アスベスト非含有の場合:通常の塗装工事またはカバー工法・葺き替え工事の見積り
• アスベスト含有の場合:「石綿作業主任者」の配置、飛散防止対策費、特殊処分費などを含めた見積り
アスベスト含有時は工事費が増加する傾向があります。この段階で複数の業者から見積りを取得し、工法や安全対策について十分に比較し、検討することをおすすめします。
契約・発注・着工
見積り承認後、施工業者と契約を交わし、着工という流れになります。
まとめ

スレート屋根の改修工事は、特に築年数の経った工場・倉庫において慎重な対応が求められます。2006年以前の建物ではアスベスト含有の可能性があるため、法令に基づく適切な調査と対策が不可欠です。改修工事を検討する際は、まず「建築物石綿含有建材調査者」による専門調査を依頼し、その結果に基づいて最適な工法を選定しましょう。
またスレート屋根の劣化状況によって塗り替え、カバー工法、葺き替えと選択肢がありますが、安全性と経済性のバランスを考慮した判断が重要です。特にアスベスト含有建材の場合は、作業員の安全と周辺環境への配慮を最優先に、法令遵守の工事計画を立てることが求められます。適切な専門業者との連携により、安全かつ効果的な屋根改修を実現しましょう。